「……先輩は最初から、あたしのこと裏切ってた。
あたしのこと好きじゃなかったんでしょ?」
抱きしめてた女の人が、好きだったんじゃないの?
……あたしは浮気相手に過ぎないから、手を出さなかったんでしょ?
「うん。俺は確かに、仁菜のことを恋愛対象として見てなかった。他に好きな子がいた。
だけど、仁菜が必死にアプローチしてくれるたびに、惹かれてたのは事実だよ」
「……ウソ」
「ウソじゃない。まぁ、俺は仁菜が思ってるよりいい人間じゃないから……。
こう見えて、結構プライド高いんだよ。
だから最初、簡単に仁菜に心変わりしてる自分が許せなくて、意地張ってた」
……そんな風には、とうてい見えない。
いつも先輩は、大人っぽくて、凛として、すごく優しかった。
「すっげーガキなんだよ、俺。
その好きな子っていうのが俺の幼なじみでさ……でもそいつ、俺のこと見向きもしなくて、こっちが必死にアピールしてんのも気づかないで。俺はまた勝手にイライラして、ムカついて……。
そんなとき、仁菜がまた俺に笑って声かけてくれたんだ」
――『直人先輩!』
「あー、もうこの子でいいやって思った」
怒りに身を任せ、投げやりな理由だとわかっていたけど、
誰かを一途に追いかけるという、自分と重なるところがあるあたしを、先輩は選んだと言う。


