「わり、前野。俺ちょっと教室行ってくる」
「あ、ちょっと……!」
俺はすぐにその場から走り出した。
ダメだ。絶対に会うな。
――『先輩を見ると、まだ、揺らぐの……っ』
泣きながら、俺に本音を言ってきたあいつを思い出す。
だったらそっちに行くな。
お前がまた、迷子になる。
また、泣きそうな顔するんだろ?
あいつを想って、泣くんだろ?
偽ヒーローは、どんなにがんばっても本物には敵わないんだ。
だから、ダメだ……っ!
――ガラッ。
だけど間に合わなかった。
自慢の足で、全速力で階段も駆け上がってきたのに……。
メイド姿のこいつは、戸田ってヤツに捕まってた。
「……佐野」
……あぁ、ほら。
振り返ったこいつの顔を見ると……
俺の心はズタズタになる。


