「よし。じゃあ行くぞ」
抱きしめる腕を緩めると、当たり前のように佐野はあたしの手を取った。
恋人みたいに、優しく。
「え、どこに?」
「腹減ってるんだろ?そこのドーナツ屋だよ。仕方ねぇから買ってやる」
「い、いいよ。自分で買う」
それに、お腹減ってるなんてウソだ。佐野のために、あたしはここに来たんだから。
なのに佐野は、あたしの手を引いて歩く。
「さっき言ったろ。行きたいところがあれば俺に言えって。お前が言ったところに俺が連れてくんだよ。だからいい。俺が買う」
「でも、前も買ってもらったし」
「俺には時間がないんだ」
「?」
……どういうこと?
でも佐野は、それ以上はなにも言ってくれなくて。
そのままふたり無言で、ドーナツ屋に入った。


