「……え?」
予想外の言葉に、あたしはびっくりして呆然とした。
佐野はプイッと前を向き、何もなかったかのように自転車を漕ぎ始める。
後ろ姿の背中は大きくて、キレイなダークブラウンの髪は揺れていた。
そしてやっぱり、後ろから見える耳は赤い。
「……じょ、冗談でしょ?」
あたしの声は、動揺のあまり震えていて。
佐野が今、どんな表情をしているのか全然わからない。
ねぇ、なんとか言ってよ……。
数秒の沈黙のあとだった。
「あぁ、冗談だよ」
どこか諦めを含んだような声で、佐野がそう言ったのは。
……バカじゃないの?
なんでそんな、さみしそうな声で言うんだ。
もっと、笑い飛ばすくらいバカにして言ってくれてもわらなきゃ、困る。
じゃなきゃ、あたしがいつもみたいに、ふざけんなって言い返せないじゃん。


