「…………」
黙ってるあたしに、佐野は無言で顔を近づけてきた。
あ、キスされる。
直感でそう思った。
だけど……。
――ガチャ。
「ただいま〜」
下の方から、玄関の開く音と女の人の声が聞こえてきた。
「「っ!?」」
あたしと佐野は、すぐさまハッと我に返る。
だが何が起きたのかわからないまま、ふたりとも数秒見つめあったまま停止していた。
……今なにが起きてる!?
冷静に考えよ!仁菜!!
だけどあたしの脳は正常に働いてくれない。パニック状況、パンク寸前だ。
その間にも、2階にあるこの部屋に向かって、ドタドタと誰かがやってくるような足音が近づいてくる。


