「……お前、いい匂いするな」
あたしの長い髪をすくって、そっと自分に引き寄せる。
甘い声は、なんだか佐野じゃないみたい。
「なぁ……もう少し、このままでいていい?」
「…………」
あたしはときどき、わからなくなる。
佐野はたまに、こんな風にあたしを勘違いさせる言葉を言う。
まるで、本当の彼女みたいに、大事にしてくれるような感覚。
どうしてあの日、あの告白現場で助けてくれたのか。
どうしてあの日、あたしをニセの彼女にしたのか。
未だにわからない。
そして、この胸がドキドキと音を立てる理由も、わからない……。


