「君の名前は?」

「恵美。鈴城 恵美。」

「恵美…。素敵な名前だね。」

「ありがとう…」

「まぁ、入ってきなよ。お茶でも淹れるから。」

「え、ええ。」

店に入るとハーブの香りが微かに漂っていた。
店内には、本棚がいくつも並べられていてその中にはまたびっしり本が並べられている。テーブルと椅子、そしてカウンターもあり、全て木材でできていた。

「ここの店はどんな本を取り扱っているの?」

「何でもあるよ。君の望む本なら何でも。」

「何でも?魔法の本とかも?」

わざとらしくバカにするように訊いてみた。すると彼は

「あるかもね。」

「本当に?」

「さぁ、わかんない。だって僕はここにある本全部のことなんて知らないもん。」

「オーナーなのに?」

「うん。」

「へんなの。」

「そうかな?だって君はすれちがった人の顔を全部覚えてる?」

「ううん。」

「そうだろ?僕にとってはそれと同じことさ。」

「どうして?」

「可笑しな子だね、君は。そんなにも質問したいのかい?」

「だって気になるもの。」

「ふーん。まあいいけど。
わかんないよそんなこと。本が望むからここに居させてあげるだけ。
人が本を選び、本は人を望む。それだけさ。」

訳がわからなかった。

「貴方って可笑しな人。」

とりあえずそう返すしかなかった。

「そう?」

爽やかな笑顔でそう答える姿に少し苛つきを覚えた。私とは違う…そんな嫉妬のようなものだった。