リョウは気づいている。
俺が部屋の中に潜んでいること。
お前を待ち構えていること。
ドアに鍵を掛けて、リョウはその場で立ち止まったまま部屋に入ってこない。照明のスイッチにも触れようとしないで、俺が出てくるのを待っているのか。
息を殺して、俺の気配を窺っているらしい。
お前に、この俺が見つけられるかな?
ようやく覚悟を決めたのか、リョウが照明のスイッチをオンにした。俺の潜んでいる場所のドアと床の隙間から漏れてくる明かりに、ゆらりと影が浮かぶ。
いよいよ来るか……
ぞわりと胸がざわめき始める。
ジャケットの内ポケットに、静かに手を差し込んだ。
ところが、リョウはドアの前を素通りしていく。
おいおい、待てよ。
俺のことを無視するつもりか?
ゆっくりと慎重な足取りで、リョウが向かった先はクローゼット。ドアの前に立ち息を整えて、一気に扉を開く。
残念、ハズレ。
今、お前はどんな顔をした?
笑ってしまいそうになるのを堪えるのが、こんなにも辛いとは。

