「ごめんね、こんなこと話して」
私は少しだけ落ち着くことができた。


「いや、いいさ。悲しい時は思いっきり泣くといい。俺だって試合に負けた時は、ロッカーで泣いちゃったりするんだ」

「そうなの?」


「そうそう。その日の為に全てを捧げてきても、勝てない選手がいて、また特訓の繰り返しだよ」


「雪見君、いい人だね」

「いや、そんなことはないよ」

「だって黙って私の話を聞いてくれた」

「正直話すとさ、合宿で君を見たとき、ビリビリと来たんだよね。俺はいつでも君のちょっと遠くにいる。ラケット握りながらね。頼ってくれて嬉しかった」


雪見は誠実だった。それは間違いない。そっと語りかけるように、私のすぐそばまで来た。この人が私を特別な目で見ていることが分かった。
でも嫌な気持ちじゃなかった。

それはお互いがまだ自分というものを見せていないから、美化できたのかもしれない。

二人の距離が離れているから、私は自分をさらけ出せた。