ああ、全てが赤にみえる。












「あはは、刺し、たね?」

『とお、る……』


いつも一緒に座っていた筈の真っ白いソファーが赤に染まる。


「なん、で……?」


桐原は友香の肩を揺すった。正確には、よろめく体を友香の肩に捕まることで支えていた。


「俺が、嫌い、やったん?」


弱々しく、そして縋るように。


「俺は、友香が本気で好きやったん、やけ、ど」


裏切り、一瞬そんな言葉が桐原の脳裏を掠めた。

この4日間は作られたものだった?

やはり復讐するために俺に近づいた?

思考が追い付かないというように、途切れ途切れに言葉を紡ぐ桐原を見つめ、友香が軽く笑った。


『私、徹と離れるなんて考えられないよ……』


友香の頬を伝う涙は止まることを知らず、ただ床へとこぼれ落ちた。

そして友香は桐原の首に腕を回して、語り掛けた。


『私を闇から救ってくれたのは貴方。私にぬくもりをくれたのも貴方。だから、だから私のものにしたかった!』


友香は、ぎゅっと腕に力をいれた。


『決めてたの。警察が来たら徹を殺すって』

「……は、そんなん、」


カタカタと震えながら話す友香から少し離れ、桐原は弱々しいながらも笑って言った。


『とお、る?』

「はは、裏切られたかと思ったわ」


そう言って力なく笑う桐原は、自らの長い指を友香の髪にゆっくりと埋め、後頭部を支えた。

そして友香の首筋を舌でゆっくりと舐めた。


『ん、……とお、』


グジュッ


友香が身を委ねた刹那、目が見開かれた。

そして桐原が触れていた友香の首筋から血があふれ出た。


ゴキッ

グジャリ


「はっ……、ふっ、」


桐原の歯が友香の喉を噛みちぎるよるに食い込む。

ヒューヒューと酸素が漏れるような音が桐原の口元から鳴り響く。

苦しそうに酸素を求める友香は、声が出ないのか、驚ろいて桐原を押し退けようとする。

じたばたする友香の腕を桐原は強く握った。


「……友香だけ置いて行かれたくないやろ?」


桐原の口が優しく弧を描いた。

そこからは友香の物であろう血が滴っている。

その血が床に流れる桐原の血と混じるようにこぼれ落ちる。

どこかひとつになりたいとでもいうように。

その光景を見て、友香は困ったように笑った。


『とお……、る、す……きぃ』

「俺もや……!」


白いソファーは真っ赤に染まり、二人の血で溢れていた。


『幸せ、だよ』

「あんま、可愛い事言いなや。犯すぞ」

『はは、めっちゃ、好き』


横たわる友香の首に桐原がキスを落とした。


「俺等、なんで会ってしもうたんやろ……」


ドカッと音がして、部屋に警察が入ってきた。

部屋に充満した血の匂いと、横たわる男女の遺体が、すべてを物語っていた。





















どうしてあの日に出会ってしまったのだろう。

もっと早く出会っていれば、殺人鬼にならずにすんだのに。


どうして愛し合ってしまったのだろう。

愛し合わなければ、こんな悲劇は生まれなかったのに。





『徹、大好きだよ』

「俺もや」



二人の涙が血を流して落ちた。





















Fin…

ありがとうございました!