『徹、私達いつまで一緒にいられる?』


友香はよくこの言葉を漏らす。

不安げに桐原を見ては涙を流す。

そのたびに桐原は“俺が捕まるまで”と笑って答えた。

そうすると友香は困ったように眉を下げる。


『私も殺そうとしたのに』

「せやけど実際に刺したんは俺やし」


涙目で桐原を見る友香。

お互いを確かめるように抱き合い、ぽつりぽつりと言葉をこぼしていく。


『こんなに好きなのに』

「俺かて好きやで?」


いつまで続くかわからない。

事件が公になってから4日経つ。

二人を引き裂く魔の手は、すぐそこまでやってきていた。

二人ともばかじゃない。

永遠なんてないことは知っている。

それでも言葉にしないといけないと焦燥感と共に二人は眠りについた。


「おやすみ」

『明日も一緒にいようね』


静寂が二人を優しく包んだ。














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『徹!徹、起きて!』


桐原が目を覚ますと朝である筈なのに、部屋の中が薄暗かった。


「な、に?」


桐原は眠たい目を擦り、昨日は友香を抱き締めながら寝たはずだと、ぼんやり考えながら体を起こした。


『警察』

「……そっか」


通りで眠たい筈だ。

桐原は携帯のディスプレイを見て時間を確認した。

午前4時。


『早かったね。なんか』

「そらな、警察なめんな」

『なんで徹が威張るのよ』


ドンドンと玄関の戸を叩く音がする。

警察の叫び声が聞こえたが、二人は全く動じず、いつものようにコーヒーを煎れてソファーへ座った。そして微笑みあった。


『……1週間も一緒に居れなかったな』

「そやね」

『もっと光と居たかったな』

「まぁ、俺が刑務所から出てくるまで会えへんな」

お預けや。と、俯く友香を余所に桐原は笑った。伝う涙はただ友香の服に染みを残すだけで、桐原も友香も拭おうとはしなかった。

外は騒がしい。

閉めきったカーテンに人影が映っていた。


『……徹』

「……行ってくるわ」


桐原はソファーから立ち上がり、友香の唇にキスを落とした。

深く、深く。

友香は苦しいのか、上から噛み付くようなキスをする桐原の肩を軽く叩いた。


『と、徹!』

「っ、友香……!」


桐原は友香の首に手を回して抱き締めた。


「続きは……、帰ってきてからやな」

『……徹』


涙に濡れた瞳で友香は桐原を見据えた。

何度も何度も確認するように名を呼び、声にならない声を絞り出した。


「一緒におったら……、俺、お前の事殺してまうわ」


桐原がゆっくり友香から離れようと腕の力を緩めた隙に、友香は自らの腕に力を込めた。


グチョリ


『徹、離れたくないよ』


桐原は見た。

友香の濡れた瞳に自分が映っていたのを。

そしてそれが血に染まっていたことも。

ああ、もう戻れない。

桐原は下腹部を押さえながら、友香に小さく微笑んだ。


外は警察の声で、うるさい。