[今朝、都内にて殺人事件がありました。桐原徹容疑者は……]


朝、桐原が風呂から上がり、何気なくテレビを付けると、気難しい顔のアナウンサーの横に自分の顔があった。


[被害者の方は、加害者の上司だったそうです。]


中学の時のアルバムの写真だろうか。少しだけ日焼けをしている。あの時はサッカー漬けの毎日だったとうっすら思い出が蘇る。


「犯罪を起こせばほんまに写真って載るんやな、もっとええ写真あったやろ」


どこか他人事のようなコメント付きでテレビを眺め、表情を曇らせた。


[加害者は被害者に何らかの妬み、恨みがあったと考えられますね。]


「ははっ、バレとる」


桐原の上半身を髪から滴る生温い水と汗が流れ落ちる。


「……」


桐原は両手に目線を落とし、感覚を取り戻すかのように手を握ったり開いたり繰り返した。

不思議と昨日の感触を覚えておらず、本当に自分が人を殺せたのか。という不安さえ覚えた。


「うわっ、血なまぐさっ!」


しかし昨日着ていた服や、犯行に用いたナイフなどが鮮やかな赤を残し、その時の様子を物語っていた。

桐原が着ていたものを洗濯機に放り込んでいると、背後から声がした。


『とーる、どーするの?』


不安げに桐原を見上げるのは友香。


「どうって……、」


[同時に娘さんも誘拐されたようです。どう思われますか?]


「……お前誘拐されとるんやて」

『はは、仕方ないなぁ』


これからは逃げなくちゃね、と軽く笑い、友香はリビングのソファーへ座った。

その横に桐原も腰を下ろした。

びくりと友香が震えたのを桐原は見逃さなかった。


「……お前、佐々木部長の娘やろ?なんで俺を殺さへんの?憎くないん?」


桐原はコーヒーを片手に友香を見た。


『と、父さんは、私を道具としか見ていない、から』

「……ふぅん」


まだ高校生と言う立場で男に犯された友香。ましてやそれが父親。普通ならば狂ってもおかしくない。


『……徹は?父さんが嫌いだったんでしょ?』

「いや、嫌いな訳やない。ただ、大切な人を、けなされて」

『そっか、』


桐原は無言で友香の肩に頭をのせた。

友香は少しだけ戸惑っていたが、桐原の頭に自分の頭をのせた。


「……男が怖くないん?」

『……わからないけど、徹、だからかな?』


困ったように苦笑いする友香の頭を引き寄せ、桐原は耳たぶを軽く咬んだ。


「ほな、こういう事も?」

『……っ、う、ん、』


友香が頷いたと同時に桐原は友香が着ていた服をたくしあげた。

そして桐原の優しい愛撫と気持ちに、友香は身も心も委ねた。

二人が男女の関係になるまでには、1日もかからなかった。


『ねぇ、徹』

「ん、」

『徹って、どうして父さんを殺してくれたの?』

「……?せやから、さっきも……、」


桐原が友香の頭を撫でながら不思議そうにみた。

すると友香は毛布を、きゅっと掴んだ。


『違う。徹は、そんな事するような人じゃないでしょう?』

「……」

『徹は優しいよ。優しい。こんなに汚い私を抱きしめてくれるんだもん』


友香が、はにかんだ笑顔を見せた時、桐原は友香を力いっぱいに抱き締めた。


「俺は……、弱い」

『うん、それもわかってるよ』


桐原は友香の頬をなぞるように唇を滑らせた。

桐原と友香の間には“共犯者”でも“仲間”でもない、違う感情が抱かれ始めていた。


「友香、好きや」

『ん、私も』


決して許されぬ恋。

いつかは終わってしまう恋。

人を殺めて、見つけた恋。

きっと、戻れないのなんか知ってる。

だけど二人は残された時間を、お互いの為に生きると決めた。