こんなんじゃダメだ。

せめて優貴の前ではいつも通りにしていたい。

ちゃんと笑って、大丈夫だってとこ見せなきゃ。


「ホントなんでもな―」


精一杯の笑顔で言おうとした言葉は、優貴の一言で断ち切られた。





「無理して笑ってんじゃねぇよ。」




私たちはその場に立ちすくしていた。

今まで正面を向いて歩きながら話していたけど、今は優貴が私の方を向いている。

今までに見たことないような真剣な瞳をこちらに向けて。

私は何も言えず、その場で優貴と顔をあわせながら立ちすくしていた。


雨の音だけがザーと二人を取り囲んでいた。


しばらく沈黙の時間が流れ、長い時間に感じられたが実際は2、3秒くらいだろうか。



「あ、ご、ごめん私ちょっと用事が―」


そう言って私は自分の傘も持たずに走り出した。


「おい、傘―」


遠くから優貴の声が聞こえる。


傘をおいてきたのは動揺して忘れたんじゃない。


優貴が濡れちゃうから。


走って優貴から逃げたのは、何故か涙が溢れ出しそうになったから。


泣き顔は見られたくない…


私は裏路地へと入った。


始めは追いかけてきた優貴だが、だんだんと声は遠くなっていった。


体力で優貴が負けるわけないから、きっとこの慣れない道で見失ったんだろう。



泣いた。


走りながら泣いた。



どうしてこんなに悲しいんだろ。



優貴が、私の心にこんなに近づくからだ!


あまり私に笑顔を向けないで。


勘違いしてしまう…


最初は小さかった思いは、いつの間にかこんなに大きくなっていた。



『無理して笑ってんじゃねぇよ』


そう言って私を見た優貴は、



すごく、かっこ良かったと、思う。