「雪姫様、失礼いたします」
「えっ?」
則暁くんがふわりと動いて雪姫の背後に回り、
鼻先に向けて布のようなものを当てた。
するとふっと雪姫の力が抜けてがくんと崩れ落ちる。
それを則暁くんと芳さんが支えた。
何?何が起きたの?
雪姫、動かなくなっちゃった。
「大丈夫です。眠っていただいただけなので」
あたしが心配そうにしていたからか、
則暁くんはにこりと笑ってそんなことを言う。
眠っていただいたって、何をしたのよ。
「則暁も悪いなぁ。強硬手段を使うなんて」
「致し方ありません。
私は雪姫様を送り届けてまいりますので、
お二人はここでお待ちを」
そう言って雪姫を抱き上げて則暁くんは笑う。
雪姫を殺してやりたいと言っていた則暁くんを思い出して怖くなる。
あの黒い憎悪に満ちた瞳を見ていると、
本当にそうしかねない危うさがある。
則暁くんの瞳を覗き込んで背筋が凍るような思いを感じた。
「あの、気を付けて、ね」
「はい。大丈夫でございますよ」
にこりと笑う則暁くん。
ふっと黒い影がその姿を消したのを見てほっとする。
則暁くんが屋敷からいなくなって、
あたしは芳さんと二人になった。
「姫さん。本物の姫になりたくはないかい?」
「えっ?どういうこと?」
意味が分からずに問うと、芳さんは歩き出した。
その意味を知りたくてあたしもその後ろをついて行く。
ある一室に入った芳さんは奥から着物を取り出した。
「豪奢な着物がここにある。着てみるかい?」
見るとあたしが今着ている着物とは大違いの
豪華な着物が広げられていた。
色は真っ赤な赤。
真紅色だった。
今着ているものも真紅色。
そう言えば、暁斉が着ていた鎧も真紅色だったなと思う。
その着物を見て目を瞬かせていると、
芳さんはにいっと口角を上げた。
「ずっとここに仕舞ってあっても困る。
俺はあんたに着てほしいと思う」
「でも、いいの?」
「ああ。いいのさ。着せてやる」


