「ねえ、春日さん?どうしたの?」


はっと我に返って目の前にいる人物を見つめる。
あたしの息は上がっていた。


確かにあたしは走っていた。
あいつを探して、走っていた。


それなのに今は制服を着て、
あたしの教室の隅で立っている。


どういうこと?
また、自分の時代に帰ってきたの?


目の前であたしを心配そうに覗き込むクラスメート。
今まで無だったのに、一気に喧噪が戻って来た。


ああ、この感覚がもはや懐かしい。
戻って来たんだ。この場所に。


「大丈夫?具合でも悪いの?」


「大丈夫。なんでもない」


「そう?ならいいけど。
 さっきの授業も完ぺきだったね、春日さん」


さっきの授業って?咄嗟に時計を見た。
今は十一時を少し回った頃。
というと時間からしてさっきの授業は英語の授業か。


あっちの時代にいた間の記憶はないけれど、
普通に過ごしているということ?


問題なく、あたしが存在しているっていうこと?


なら、あっちの時代でもあたしは存在しているの?


あいつを探して走り続けているのかしら。


「暁斉……」


はっとあいつのことが気になって、
あたしは教室を飛び出した。


階段を一気に駆け上がって図書室に向かう。


扉を思い切り開けると、えっ?と声を上げた。


「ねぇねぇ、暁って言うの?転校生?」


「よ、よせ」


「よせ、だって。かわいい」


「暁くん、何年生?」


目の前に広がる光景が瞬時に理解出来なくて固まる。
とりあえず、当たり前のようにその場に暁斉がいた。
しかも制服を着て。
でも暁斉だけじゃなくて、数人の女子に囲まれていた。


何で?何が起こっているの?