「はい。ここにおります」


則暁くんがその声に答え、軽やかに立ち上がった。


一度だけあたしの目を見つめると、
微かに微笑みその部屋を離れる。


閉ざされた襖がひんやりと冷たい空気を運んできた。


「結城・・・春仁・・・」




ぽつり、と。


改めてその名を口にするあたし。


今までどこか可愛く見えた則暁くんが、
あたしの中で急に大人びて見え始めた。


外で2人が話している声が微かに洩れる。


あたしはふっと息をついて、
何気なく部屋を見渡した。


「あ・・・。あたしの制服・・・」


きちんとたたまれていた制服を見つけて手にとる。


これは多分、則暁くんがこうしてくれていたんだろうなって
ふとそう思う。


なんだかその制服が早くも懐かしく感じてしまう自分がいた。


まだ、こんな不思議なことが起こって間もないのに、
随分前からここで生活してるみたい・・・。



「・・・仁」


そっと呟かれたその名に、自分で驚く。


なんで仁?


あたし、なんか変だよ。


今までこんなふうにふとしたときに
仁の名前を呼んだりなんてしなかったのに・・・。



ここが“結城家”であり、
あいつが仁によく似ているからかもしれない。




「ほんとばかみた・・・・・・ん?」








制服をもとの場所に仕舞おうとしてふと気付く。



微かに聞こえた紙の擦れる音・・・。



その服に手をあてて探すと、
カサッと音がした。



「こ、これ・・・っ!」




その紙を見てあたしは固まった。


見覚えのある紙だったから。



それは古くて脆い、小さな古紙。


あの時、図書室で見つけたものと同じもの。


やっぱりこの時代に書かれたものだったんだっ!?


「でもあれは・・・枕の下に・・・」



そう呟いて口を噤んだ。


もしかしたらこれはあの時の手紙じゃないのかもしれない。


何でかわからないけどそう直感で思って、
ゆっくりその紙を開いた。




そして・・・。



「お前は・・・何者だ・・・?」






















お前は何者だ?


   私を知っているのか?


何故、文が届くのだ?


   私は、ここにいるぞ