「それって・・・つまり2人はっ」


則暁くんは小さく頷き、目を伏せた。


そうして微かに息をつくと、口を開いた。



「ですが、それはあってはならないこと」


「えっ?」


「暁斉様は織田家に仕える武士。
 そして雪姫様は、織田家の姫君」


「あ・・・」








「身分違いの恋など、してはいけないのです」









身分違い。


姫と、家臣の叶わぬ恋。




それは命がけの苦しい恋。







「暁斉様はそのことをわきまえております。
 気持ちを押し殺し、己の天命を全うしようと
 力強く立っておられるのです」





「そんな・・・」


「ですが、そんな暁斉様の決意を、
 あの人は踏み躙ったのです」


「えっ」


「幾度となく送られる文。
 頻繁に足を運ぶという行為。
 それらは全て、暁斉様の心を乱した」




則暁くんの声が低くなっていく。


憎悪の光はじわじわと、静かにともされていく。



「何度、あの美しく白い首を
 手にかけようと思ったのか、わからない」


「則暁くん・・・」


「何度、赤に染めようと決意したか、わからない」


「則暁くん」


「何度・・・」


「則暁くん!」



あたしが叫ぶと、則暁くんがはっとしたように顔をあげ、
あたしをじっと見つめた。



「ねぇ、則暁くん。
 貴方はもしかして・・・・姫様を・・・」






好きなの?


だから、暁斉を慕う彼女が許せない?


ねぇ、そういうこと?






「私を・・・
 私をその名で呼ばないで下さい」



「え・・・っ?」






「“則暁”などと、貴女には呼ばないで欲しいのです」




「の・・・則暁く・・・」







「私の本当の名は春仁」








「え・・・」








「結城春仁」