「しかし、信長様は信行様を忌み嫌っております。
噂では、そのお命まで狙われているんだとか」
則暁くんは背筋をぴんと伸ばして座りなおした。
「自分の身に危険を感じた信行様は、
今度はご息女である雪姫様の身が危ないと踏んだのです」
「それって・・・」
「雪姫様が8つの頃、信行様は織田家から遠ざけ、
遠縁である津田家へと送りました」
「津田家??」
「はい。あの方は、津田のお雪として。
呉服屋の娘として身を隠すことにしたのです」
則暁くんの言葉に、あたしは言葉を失った。
どうして?
どうして実の父親の元を離れなければいけないの?
そりゃあ、現代にだって離婚だなんだって
家族ばらばらになったりする家庭もあるけど、
危険だからって、見ず知らずの家に
自分の娘を預ける親がいるっていうの!?
信じられない。
考え方がまるで違うんだわ。
だから、平気なのね。
織田信行も、その津田家も、
そして・・・。あの姫様も。
「ある日、雪姫様が山越えを試みた頃、
山賊に襲われる姫様を暁斉様が助けたようです」
「暁斉が・・・?」
「その日からです。あの人がここへ、
暁斉様のもとへ足を運ぶようになったのは」
ああ、そうか。
つまりは雪姫様の“ひとめぼれ”。
あいつ、顔は整ってるほうだもんね。
それで好きになっちゃったってわけ。
「姫は暁斉様を慕い、そして暁斉様も姫を・・・」
「え?」
「姫を、好いてしまったようです」