いい匂い。


まるで懐かしい香り。


どこかで、かいだことのあるような匂い。


あたしが声を上げると、則暁くんは
静かに微笑んだ。


「もう、効果が出ていますね」


「え?」


「お顔の引きつりがなくなられました。
 貴女に差し上げます」


「いいの?ありがとう・・・」


顔・・。そんなに引きつってたかな?


多分、それほど迫力があったんだ。


あの、姫様に・・・。


傍に腰を下ろした則暁くんを見つめて、
あたしは恐る恐る口を開いた。




「あの・・・・則暁くん」


「はい」


「さっき来てた姫様って・・・
 織田家の姫様なの??」


「・・・・・・・・・・」





あたしの言葉に、則暁くんが固まる。


表情が変わったのを、あたしは見逃さなかった。


やっぱり、口を挟んではいけない事情があるのかな?




「あ・・・ご、ごめん」






「織田雪姫・・・。
 あの方は、信長様の弟、信行様の
 たった一人のご息女でございます」



則暁くんの言葉に、あたしは黙った。



だって、



また、その瞳の奥に
あの光が宿ったから。