「暁斉様!芳でございます。
 御支度が完了いたしました」



互いに睨みあう空気の中、
芳さんの声が襖の向こうから聞こえた。


暁斉は微かに舌打ちをすると、
衿元をきれいに直して姿勢を整えた。



「今度は大人しくここにいろ。
 着いてきたりしたらここから追い出すからな?」


「言われなくても。誰があんたなんかに
 着いていくのよ」


「本当にお前、女か?」


「何よ、それ!!」



「暁斉様、お急ぎください」


「わかってるよ!!」



暁斉が不機嫌そうにそう返事をして、
あたしのそばからすっと離れた。


途端に、今まで温かかったはずの体温が
一気に冷え出す。


襖が開いて、奥に芳さんを見つける。


「暁斉様。これを」


「ああ」


芳さんが手渡したのは肩衣というものらしい。


ほら、よく教科書で武将の写真があったじゃない。
あれよ、あれ。


芳さんから受け取った暁斉はその肩衣を
綺麗に羽織った。








「あ・・・」




思わず息をするのを忘れる。



だって、だって・・・。







「いつ戻るかわからないからな。
 則暁。今度は離れるなよ」


「承知致しました」


「頼んだぞ」


「はっ!」








その場に立ち尽くすあたし。


暁斉はあたしなんかに目もくれず、
芳さんを連れて出て行ってしまった。



あいつによって着せられた着物が
熱を帯びるようにだんだんと熱くなる。


あたしは着物の裾をぎゅっと握りしめ、
きつく目を閉じた。