「仁の弟?」


お兄ちゃんとお父さんが、顔を見合わせた。


一番びっくりしたのは、たぶん仁。


訪ねてきて開口一番に吐かれた嘘が、
仁の思考を停止させた。


あたしと、そのそばにいる暁斉をじっと見つめて、
それからお兄ちゃん達をそれぞれ見た。


リビングに流れる異様な静寂。


あー、ダメかも。


そう思ったときだったの。





「・・・あー、なんだ。
 ここにいたんだ?暁」



え・・・。



「・・・仁」



今度はあたしと、暁斉が同時に声を上げて驚いた。


咄嗟についたあたしの嘘に、仁が乗っかった・・・?


仁はいつもみたいな明るい口調で、
暁斉に近付くと肩に手を置いた。


暁斉は拍子抜けしたように固まったまま動かなかった。


「仁に弟なんていたのか?
 春ちゃんだけじゃなかった?」


さすが鋭いお兄ちゃん!


そうだよ。


仁に弟なんていないの。


だってこいつは暁じゃないし、
あたしが作り出してしまった偽者の弟なんだもの。


もう苦しいよね。
こんな嘘。



そう思ったのに。



「兄妹は春香だけっすよ?
 暁は義弟?っていうんかな?
 うちの本家の方の養子だったから、
 今までは会わなかったんすよー」



仁は淡々と、陽気に話し始めた。