「あ、あの!これは・・・
 授業の時の衣装・・で・・・」


まずい・・・。


あたし、しゃべらないほうがいいのかも。


ますますあやしさを強めた気がする。


お兄ちゃんは首をかしげた。


「授業で着物?」


「う・・・ん。着付け・・・着付け!の授業!!
 暁があたしの練習に付き合ってくれてるの」


「着付け・・・」


お兄ちゃんが呟くと、あたしは頷いた。


それでも疑いの念を晴らさないお兄ちゃんに、
暁斉が一歩前に出た。


「え・・・?」


「なんですか?」


冷静にそう聞くお兄ちゃんと、
黙ってお兄ちゃんを見据える暁斉。


それを不安そうに見るお父さんと、
本当に不安でしかたないあたし。




どうしたの?暁斉。


やめてよ?


何も喋らないでよ?


お願いだから黙ってて!!



「結城・・・暁と申します。
 以後、お見知りおきを」








お見知りおきをって・・・!!



暁斉はぐっと拳を握り締めて
深々とお兄ちゃんに頭を下げた。




暁斉、きっと我慢してるんだ。



大名の息子である自分がこんなふうに
頭を下げるなんて、きっと少ないはず。




得体も知れない男に頭を下げるなんて一生の不覚。




それが戦国時代の気高い武士であるならば・・・。




今ここで暁としていようとするこの人と、



向こうの時代で、みんなに慕われた
次期当主である武士の暁斉。



どちらの彼も、その背中は凜としていて、
とても綺麗だった。