「できました。これが着物の着方です」
「え?」
さっきから何をしていたかと思えば、
あっという間に着物を着せられていた。
「なんで・・・」
「そんな格好でいるということは着物の着方を知らない
異国の地の者とみた。則暁が手本をみせた。
そのおかしな格好のままでは動けないからな。
隣で着替えて来い」
暁斉がそう言うと、則暁くんがこちらです、と
襖を開けた。
「ちょっと待って!あたしがどこから来たか知らないのに、
何も聞かなくてもいいの!?」
「・・・・則暁。連れて行け」
「はっ」
何で何も聞かないの?
ドラマや小説なんかでは、
タイムスリップっていうの?
こんな得体の知れないやつがいたらまず、
「貴様、何者だ!」なんて言うのに。
それなのに暁斉は何も聞かない。
聞かないどころか、至って冷静。
何でなの?
わけがわからずに暁斉のいる襖の向こうを
睨みつけていると、
則暁くんが静かに言った。
「終わりましたら、お呼びください」
「え・・・・うん」
無常にも閉じられた襖はとても冷たく、
一人になると静けさが増していった。