「あれ?・・・んっ!!ダメだ・・・」


何度力を入れても立てないあたしに、
暁斉が近付いた。


そんな時・・・。




「あ、暁斉!!後ろに―」



あたしが言い出した時、暁斉はすでに体勢を変えていた。


先ほどの若者が懲りなかったのか、
再び刀を振り上げていた。


暁斉の刀は鞘に収まったまま。


今度こそ斬られちゃうの・・・!?


そう思ったときだった。




「ぐ・・・っ!!」


唸るような鈍い声と、
ダァン、という大きな音が聞こえた時にはもう、


若者が地面に背中を打ち付けていた。


「暁斉・・・」


「忠告はしたはずだ。次はないと思え。
 芳!!この男を役所へ運べ」


遠くで作業をしていた芳さんを呼んで若者を引き渡すと、


暁斉はあたしに手を差し出した。


「え・・・?」


「手を貸してやる」


「い、いい!1人で大丈夫だから」


突然のことで、あたしは咄嗟に目をそらした。


しばらくして呆れたようなため息が聞こえたかと思うと、
あたしの体がふわっと浮いた。


「きゃあ!!ちょ・・っ、何すんのよ!?」


「おかしな格好でいつまでもいられると困る。
 早く戻るぞ」


「お、おかしなって、制服のどこが・・・っ」




そうだった。


あたしの今いるこの場所は、現代じゃない。


この人たちの普通はこの着にくそうな着物で、
腰にさげた刀が当たり前なんだと悟った。



その瞬間、涙が溢れた。



暁斉に背負われたあたしは、長屋に着くまでずっと、
必死で涙を隠した。


気付かれないように、必死に。