「いーって!今日は由紀の体調心配して
 遊びにきただけだし」


嘘つき・・・。


バリバリお兄ちゃんと夕飯目的だったくせに・・・。


そう言おうとして仁を見ると、仁は大きく笑った。




仁はずるい。


そんな顔されると、何も言えなくなるんだもん。


「仁ー。手出すんじゃないぞー?」


「わかってるよ!てかおじさん、呑んだ?
 発言が酔っぱらいだ!!」


「父さん、仁に絡むな!・・・・ったく。
 2人は上行っとけー。後は俺がやるから」


「先輩、ありがとー!ほら、由紀。行こうぜ。な?」


「うん・・・」





仁が羨ましい。


あたしよりも、お兄ちゃんとお父さんの“家族”って
感じがする・・・。


男の子だから?


仁の明るい性格が、そうさせてるのかな?



たまに、本当のたまにね。


仁といると苦しいんだ。


仁を嫌いになりそうで怖い。


仁が離れていってしまいそうで怖いの。



何で?って聞かれると、
はっきりとはわからないけど・・・。




「待ってろな?今持ってくるから」


「うん・・・」







仁が出て行って一人になる。


そういえばさっきのあれは、夢だったのかな?


倒れる瞬間に見えたあの男の子の姿も、


さっきの夢も、全部幻だった気がする。






“姫様!”




姫様、なんて・・・。


古い時代劇を見ているようだった。


なんだろう・・・。


名前が同じだったから気になるのかな?


考えると苦しくて。


あの声が耳に残るようで・・・。





「もしかして・・・」




もしかして―


そんな言葉を呟いて、あたしは
ポケットに手をのばした。