暗闇の向こうから人の声がした。


仁とあたしは互いに顔を見合わせる。


今の、もしかして当たったんじゃ・・・。


仁はあたしを庇うように前に立つも、
ふっと表情を緩めた。


「仁・・・」


「ちょお、待て。今の声って・・・」


「仁?」


仁の言葉に、あたしも向こう側を見つめる。


だんだん目が慣れてきて、
あたしは向こうで顔をおさえる人を見て
初めて気付いた。


見覚えのある顔。

今朝目にした服装。




「お兄ちゃん・・・?」


「由紀?・・・と、仁じゃねぇか」


顔をしかめていたのはあたしの兄。


春日冬真。


そう言えばもう仕事終わりの時間だったね。


横を見ると仁はいなくて、
前をみるとお兄ちゃんのそばにその姿を見つけた。


「冬真先輩、悪気はなかったんすよ?ただ、
 由紀に俺の武勇伝を・・・」


「へ~え。そんでお兄様にはこれ?」


「だーから!!わざとじゃないって」



仁とお兄ちゃんは仲がいい。


もともと中学からの先輩後輩の仲で、
しょっちゅう家に遊びにきていた時


あたしと仁は知り合ったの。


お兄ちゃんは仁のことを実の弟みたいに思ってるし、
仁は仁で、お兄ちゃんは一番の親友みたいなもんだって
いつも言ってる。


あたしはいつも、そんな2人がじゃれているのを
こうしてみているだけなんだよね・・・。