「気を付けて行ってこい。土産話、待っているぞ」
「ええ。きっと、暁斉様は笑ってくれるでしょう」
もう見ていられないと目を逸らす。
「由紀姫様」と則暁くんの声がして顔を上げると、
則暁くんがあたしを見ていた。
「私がいない間、暁斉様をよろしくお願いします」
「わ、わかったわ」
「暁斉様、由紀姫様、お元気で」
今生の別れ。
それがこれほど辛いものなのか。
死ぬと分かっているところに自ら飛び込んでいくなんて出来ない。
あたしには、出来ない。
則暁くんは立ち上がって、その身一つで歩き出した。
その背中を黙って見つめる。
泣かないように堪えて、唇を噛みしめた。
「なんだ、あいつ、荷物はないのか?」
そんなことを言う暁斉をかわいそうに思う。
何も知らされない。
それが一番悲しいかもしれない。
きっと暁斉は則暁くんの言葉を疑うことなく、彼を待ち続ける。
彼を信じて、信頼しているからこそ、待ち続ける。
もう、戻っては来ないのに……。
「さよなら……春仁くん」
暁斉に聞こえないように、そっと呟いた。
どうか、その首が落ちませんようにと、
最後の最後で抗って願ってみる。
そんなことはあり得ないとどこかで分かっているのに。
則暁くんの背が見えなくなって、
あたしはその場に崩れ落ちた。
ただ、泣いてしまわないように体に力を入れるけれど、
上手く入らない。
「大丈夫か?則暁が行ってしまう前に、
何か薬を貰えばよかったな」
「……いらないわ。薬なんて」


