「……そうですか。今までお辛かったでしょう。
貴方の生き様、尊敬に値します。
私は、貴方を生涯弔って生きましょう」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
「身を呈してあのお人をお守りしてくださってありがとう。春仁様」
……言った。
その名を呼んだ。
思わず則暁くんを見ると、彼の瞳から涙が一筋零れ落ちた。
どれだけその名を呼んでほしいと願っただろう。
ずっと春仁としての生を殺してきた。
今まで何度、則暁ではなく春仁と呼んでと叫びたかっただろう。
きっと、雪姫にそう呼ばれただけで、則暁くんは幸せだろう。
この涙はそういう意味だ。
だけどそれ以上、則暁くんが涙を見せることはなかった。
伝った涙はそのままに、柔く微笑んだ。
「ありがとうございます。雪姫様。
それでは私、春仁はお先に永遠の暇を頂戴いたします。
どうか、お幸せになってください。
貴女様の幸せを心より祈っています」
「ええ。貴方も、天上の国で幸せになるでしょう。
お祈りしています」
則暁くんは一度深くひれ伏して、立ち上がった。
あたしも慌てて立ち上がる。
そうして二人で部屋を出た。
振り返ると、閉じられた襖が目に映る。
きっとまだ、あの奥に雪姫がいる。
このまま雪姫を攫って逃げ出してしまえばいいのに。
そう思うけれど、そうしないのはきっと暁斉を思っているから。
なんて弟想いの兄様なのかしら。
その背中、とても尊敬する。
そういう背中になれるということは、
あなたはきっと強い人なのね。
死ぬことも厭わないなんて、簡単に出来ることじゃない。
落ち着いていられるのは、きっとどこかでこうなる未来も
予想していたんじゃないかと思う。
雪姫の言った通り、見事。
だけどその考えがどこか理解出来ない自分もいた。
幸せな国に生まれたあたしからすれば、
この国の考え方はおかしい。
身代わりに殺されるとか、
首を差し出す代わりに人質を解放するとか、どこかおかしい。
命の重みがない気がする。
どこか軽薄でうすっぺらい。
だけど生と死が混沌としている世の中だからなのか、
生きているということがこんなにも幸せだと実感することが出来る。
不思議な世界だなと思った。


