「ちょ、っと。何なのそれ。
則暁くんのことなんだと思っているのよ!」
「則暁さんはあのお方の家臣です。
それ以上でも以下でもない」
「ふざけんじゃないわよ。
則暁くんはね、ただの家臣なんかじゃないわ!」
「由紀殿。いいのです」
「よくない!いい?雪姫様。
則暁くんはね、あいつのお兄様よ!血を分けた兄弟なのよ!
それを貴女は、なんとも思わないの?」
雪姫が初めて眉を揺らした。
はっと息をのみ、あたしを見つめた後で則暁くんを見る。
玉のような瞳がゆらゆら揺れる。
そんな雪姫を見て、則暁くんははぁっと息をした。
「隠していて申し訳ございません。
私、名を春仁と申します。
結城春仁。結城家の長男でございます。
暁斉様は私の双子の弟でございます」
「春仁……?」
「はい。私の本当の名でございます。
私は本当の名を捨て、暁斉様に仕える家臣として生きてきました。
己の幕引きも、家臣として。
ですので、本当のことはどうか誰にも言わないでいただきたい」
「どうして、貴方は博仁様に仕えるのですか?」
雪姫が問うと、則暁くんはにやりと笑った。
「あのお方がいつか天下を取るのを、私は見てみたかったのです。
それほどの力を持つお方です。
暁斉様は立派に生き永らえるでしょう」
にいっと微笑む。
そんな顔みたことない。
意地の悪いお兄さんのような顔をしていた。
そんな姿に悲しくなる。
この人が、もうすぐで死んでしまう。
それが悲しくて、泣きだしたくなった。
それでも唇を噛みしめて堪える。
雪姫様、どうか、則暁くんの想いを汲んで。
そして、その名を一度でいいから……。


