紙からペンを放して振り返ると、
ドアの傍には仁がいた。
手には、あたしのカバンも。
気付くと辺りは薄暗くて、
鉛色へと変わっていた。
「仁・・・。どうして・・・・」
「こんな時間まで何してたんだよ。
おじさん心配すんだろ?」
「うん。ごめん・・・」
「おぅ。んじゃ、帰ろうぜ」
仁が大きく笑って手を差し出す。
あたしはその手をとって気付いた。
「仁、ちょっと待ってて!」
あたしの声に、仁が手を離す。
あたしは机の上の紙を床に落ちた本へはさみ、
代わりに古紙をポケットにしまった。
「由紀、なんかあった?」
「ううん、別に。帰ろう、仁」
「・・・そうだな。早くしないと
俺がおじさんに怒られそうだ」
「うるさい。先に帰ればよかったじゃない」
「や、それは俺の意志に反するぞー」
「・・・仁ってやっぱり変」
「そ?お褒めにあずかりまことにありが―」
「褒めてない」
2人、目が合うと仁が笑った。
「ほら、帰ろ。由紀」
「うん・・・・」
さりげなく、優しく包まれた右手は温かくて、
それまで起きた不可解なことも全部、
忘れられそうな気がしたの。
<あなたは誰?今どこにいるの?>