あっ、と思って口元に手を当てる。


そうだった。
ここでは、それが暗黙の了解。


武士である暁斉が雪姫様と恋をしてはいけないように、
その暁斉の家臣である則暁くんが
雪姫様と恋をしてはいけないと言っているんだ。


なんてこと。
それじゃあ雪姫様はこれから身分に合った、
好きでもない誰かと結婚しなくてはいけなくて、
それは則暁くんと暁斉も同じってことなの?


そんなの、誰も幸せになれないじゃない。


この時代はなんて悲しい時代なんだろうか。
誰もが幸せになれない世界なんて、あっていいものなの?


「ですが、貴女様は違います。
 身分も後ろ盾も何もない異国の地の者。
 きっと、暁斉様にお似合いのお人だと思いますよ」


則暁くんがそう言って静かに微笑む。


そんな悲しそうに笑わないで。
あなたにも幸せになってほしい。
だってあなたは、暁斉のお兄様だもの。


あたしにとっても、大事な人だ。
そんな人が悲しい思いをするなんて、あたしは耐えられない。




「どうか、暁斉様をお救いください。由紀姫様」




初めて、則暁くんがあたしを姫と呼んだ。


認めてもらえたような気がして嬉しかった。
芳さんやこの人に背中を押されて、
暁斉への気持ちは間違っていないんだと知る。


だけどあたしは、仁のことも気になる。


あんな顔をさせてしまった。
何も弁解できないまま、この場所に戻ってきてしまった。
それだけが、心残り。


……でも、いいか。
また近いうちにあっちに戻れるよね?
その時にあれは違うんだって言えればいいか。






「私に変わり、暁斉様のおそばにいてください」


「えっ?」














「私は、もうじき、消える」