距離なんてない。
近すぎる。
密着してる。
……あ。
なんか心臓がちょっとうるさくなってきた。
「千早ー?…もう…ちーちゃんってば…遅くなるなら言ってくれればいいのに…また出なきゃいけないんだから…」
少しむくれたみたいなお母さんの愚痴が、クローゼットの扉越しにくぐもった声で聞こえてくる。
また仕事なんだ…。
頑張ってね。
でもゴメンなさい。
あたし今、
それどころじゃないみたいだ。
心臓がうるさくてさ。
息が上手く出来なくてさ。
カイトの手が触れてる部分がなんか知んないけど熱くてさ。
……なんすかコレ?
あぁ、たぶんアレだ。
クローゼットが狭いから、酸欠状態になってるのだよ。
うんそうだ。
だからカイト。
「……苦しい」
「千早?」
「…カイト」
「ん?」
「……苦しくて涙出てきた…」
じんわりと滲んできた涙に、あたしは正直戸惑った。
カイトはゆっくりとあたしを押さえる力を緩めて、あたしの顔を除き込んだ。
その顔を見たくない。
…でも見たい。
…胸が苦しくてムカムカする。


