リビングにお母さんの姿はなかった。

仕事だろうかと思ったけれど、お父さんのところに行っているらしい。

きっと、あたしのことで話し合いをしているのだろう。


申し訳なくなった。




葵は椅子に座ろうとはせず、リビングに入った途端、こちらを振り向いて、あたしではなく、カイトを見据えた。


「……君は、確かこの間も一緒に居たよね?
……チィを、ずっと守ってくれていたんだね。

…ありがとう」


突然の感謝の言葉に、一瞬驚いたように目を見開いたカイト。

けれど、スッと冷静を取り戻し、「いえ」と一言だけを返した。


それから葵は、あたしへと視線を戻し。


「一昨日、小町さんという女性が訪ねてきたよ。
いろいろとお世話になったみたいだね。

…それで、チィは、僕に聞きたいことがあるんじゃないのかい?」


小町さんの来訪から、葵はすでに、あたしが来ると悟っていたらしく。

葵はもう、あたしが聞きたいことを知っているのだろう。

あたしは、グッと顎を引き、一歩、葵に近づいた。

1メートルもない距離。

ここまで近づいたのは、一体いつ以来だっけ。


「…あたし、葵に答えを聞きにきた。

どうしてあんなことをしたのか、理由が聞きたくてここに来た。
全部教えて欲しい。

……葵が、ホントは優しいんだって、あたし知ってるから…」


しっかりと、葵の目を見て言えば、葵はスッと瞼を伏せ。

ゆっくりと頷いた。


「……そろそろ、チィに謝らないといけないと思っていたんだ」