――刹那。


ふわっと、頭を抱き寄せられた。

カイトの胸板に額がぶつかる。

…ゲームキャラのクセに、ちゃんと鼓動が聞こえてくる。

心地良いリズム。




「ヤダね」




カイトはあたしよりバカなのかも。

近寄るなって言ったのに、抱き寄せるなんてありえない。

カイトはバカだ。


「離せバカイト」

「繋げるなよ」

「あたしは可愛くなんてないんだから」

「さっきの千早、めちゃくちゃ可愛かったけど?」

「あたし乙女捨てたんだから」

「どこが」

「腐女子だもん」

「関係ないでしょ」

「じゃあ“フラグ”ってわかる?」

「うん」

「意味は?」


カイトはあたしをゆっくりと解放し、見つめる。

それからあたしの濡れた前髪を持ち上げ、


額に口づけた。


「…………っ」


放心するあたしの瞳をもう一度見つめ、カイトは意地の悪い感じで笑みを浮かべる。


「こういうこと……、だろ?」








――不覚。




「……バカだよね、カイト」

「言ったね」

「…あたしのこと…見捨てないでくれるなんて……ホントバカだよ…」


また涙が込み上げてきた。