=シャワーの後で=



昨夜ユウカは久しぶりに親友のトモミの部屋に泊まった。
理由は、自分自身の恋愛相談だ。


付き合ってちょうど2年になる彼と、最近ちょっとしたことでぶつかるようになった。

その原因が自分の方にあるのか、それとも彼の方にあるのか・・・ユウカは、あれこれと考え込んでるうちに、わからなくなってしまっていた。



自分よりも経験も多く、今も彼と上手く行っているらしいトモミに話をじっくりと聞いてもらって、アドバイスをしてもらおうと考え訪れたのだ。


深夜2時過ぎまで、スナックをつまみに缶チューハイをだらだらとすすりながら、ユウカはトモミに愚痴や不満をきいてもらった。

それで大分気持ちはスッキリとした。トモミも、彼に対して同じような不満を持っていることを知って納得出来る部分もあった。


「まぁ、男と女なんて、そんなものよ。お互い人間だから欠点だっていっぱいあるし、それにいちいち反応してたら身がもたないというか、付き合いがもたないんじゃない?」


トモミがこれがとりあえずの結論!というように、強い調子で云った。


「うん、そうよね。わたしはわたし達だけがそういう問題を抱えているのかと思って、悩んじゃってたけど、そうでもないってことがわかったから。それだけでも、かなり楽になたわ!ありがとう」

ユウカも、そう返して昨夜の恋愛相談は締めくくられた。




翌朝。




ユウカに彼からメールが入った。


「今日、どうしてる?暇なら昼でも一緒に食おう。話もあるし・・・」


ちょっと嫌な感じがした。
彼、そうナツヒコから食事に誘ってくるなんて、最近ではほとんどなくなっていたから。


そのことを、トモミに話すと、トモミも「彼は何か心に期するものがあるのかもしれないわね・・・もしかしたら別れを切り出すとか・・・」


「どうしよう・・・なんて答えようか?」
ユウカは、返信出来ずにいた。


「まぁ、会ってみるしかないわよ。そして、自分の気持をぶつけることね!そうすれば、彼だって考えなおしてくれる可能性もあるし・・・」


「そうだよね、わたしはナツヒコ別れたくないからって、云えばいいよね!」


「そうよ、ここで、熱いシャワーを全身に浴びて、スッキリを不安もなにも洗い流してから会いに行けば大丈夫!」
トモミが、そういってバスタオルを差し出してくれた。


「わたしのタバコの臭いが着いちゃってるかもだから、髪もしっかり洗っていったほうがいいわよぉ!」


「うん」
ユウカは、うなずいてバスルームへ入った。



ナツヒコは約束の店に10分も早くついていた。
ほぼ気持ちは決まっていた。もう、アイツとは別れる。最近は会って30分もすると、何かで言い争っていることが多くなっている。


決定的な、行き違いがあるわけでもなく、他に好きな相手が出来たわけでもない。


なのに、何かが以前と違ってしまっている。


ナツヒコは、そんなことを思っていた。そして、それを正直にユウカに話そうと決めて今日誘った。


待ち合わせ時間5分前に、ユウカは店に着いた。



ナツヒコを見つけて、すぐに向かいの席に座った。



「早かったね?」
ユウカは、スッキリとした笑顔で明るく云った。



「まぁ、暇だったし」
ナツヒコは、ポツリと云って大きく息を吸い込んだ。


ちょうどそのタイミングで、ウエイトレスがオーダーを取りに来た。
二人とも、同じ注文をした。
最近では、珍しかった。付き合い始めの頃は、たいてい同じものを注文していたような気がする。


ナツヒコは黙ったまま、ユウカを何気なく見ていた。


ユウカはそんなナツヒコの眼差しに、ただ曖昧な笑顔を返していた。


差し障りのない話を、ひとことふたこと交わしながら、核心に触れる話題をどちらも切り出せずにいる。


ナツヒコの頭の中を、何故か出会った頃のふたりのシーンが次から次へと巡っていた。ユウカの可愛い仕草、ふわっとしてほんわかな笑顔・・・


「ねぇ、話って何だった?」
ドリアを食べ終えて、水を一口飲み干してから、ユウカが少しナツヒコに顔を近づけて云った。



「なんだっけ・・・」
ナツヒコは笑った。


「わたし達って、最近ケンカばっかりしてたけど大丈夫かな?」
ユウカが、切り出した。


「どうおもうのよ?」
ナツヒコが、タバコに火をつけながら云った。


「ぜんぜん大丈夫だと思うけど?」


「そっか、じゃぁ大丈夫だろ・・・。ユウカさぁ、今日ちょっと懐かしい匂いがしてちょっといい感じだよ・・・」
ナツヒコが照れたように云って、コーヒーカップへ手を伸ばした。


「へぇ・・・。いつもと同じだけどなぁ~」
そう答えてから、ユウカは気づいた。



シャンプーとコンディショナー?



そういえば、トモミのバスルームのそれは、ユウカがナツヒコと出会った頃に使っていたモノと同じだった・・・