「おい、絵莉花。帰るぞ」
『はーい』
部活終了時間。
私は部活には入っていなかったけれど、運動神経が良いらしくて人数不足の部活の手伝いを時々している。
でもどの部活も真剣に打ち込む程ではなかった。
何より、そんな暇があったら映画を観たいと思っていたし。
「何読んでんだ?」
『んー、ゆうくんにはわかんないよ』
「なんだそれ」
フッと鼻を鳴らしてゆうくんは笑う。
『帰ろうか』
「いいのか?」
『うん。明日読むから』
荷物を取り、ゆうくんの隣に並ぶ。
肩が触れ合うくらいの距離が何だか恥ずかしい。
私達は、朝一緒に来た正面玄関を出て、帰るときには必ずテニスコートを通る。
今日もゆうくんが頑張ったんだなって思うと何だか……、母性本能っていうの?それが働く気がする。
『あ、そう言えばね』
「うん」
『この前ゆうくんが観たがっていた映画、観ちゃった、先に』
「……はぁ!?一緒に行くって約束してただろうがっ!」
『ご、ごめんっ!でもどうしても観たくて……』
私は週末になると必ず映画館へ行く。
だからこんな風に、ゆうくんが観たがっていた映画を先に観ちゃうことだってよくある。
「はぁ……で?面白かったか?」
ゆうくんはため息をついて、私に目線をあわせた。
『うんっ!配役とかで映画の良さがまた格段と良くなる事とか学べたしっ!それに……』
「それに?」
ゆうくんは私の話をいつも笑顔で聞いてくれる。
昔からゆうくんは人気者で、小さい頃は私だけゆうくんに贔屓されてるなんて苛められそうになったっけ。
その時はゆうくんが憎かったけど、今思えば、あの頃から私を特別にしてくれていたんだな。
『あのね、私、映画監督になりたいんだ』
「は?知ってるに決まってんだろ?何言ってんだ、バカ」
貴方のその瞳が私に向いている事がすごく嬉しい。
『何でもないよ、言いたくなっただけ。あ、ここでいいよ』
「気を付けろよ?」
『もう目の前だよ。……ゆうくんこそ』
「バカ。俺だってすぐそこだ」
斜め前にゆうくんの大きな家がある。
『あっ、ゆうくん!』
「おっと、忘れてた」
私が呼ぶとゆうくんは振り替えって、私の家の方へと戻ってきた。
ゆうくんが私の前髪を掻き上げて、唇に熱をくれた。
『……ん』
「じゃあな。また明日」
『ばいばい!』
ゆうくんは手を振りながら、自宅へ帰っていった。
いつからだったかな、ゆうくんがあんなに大人になっちゃったのは。
『淋しい気持ちもあるんだけどね』
離れていってしまうようで怖くなる時もある。
『おやすみ、ゆうくん』
私はゆうくんが大好き。