「ねえ君」
不意に知らない男の声が後ろから、聞こえた。
「俺たちと一緒に遊ばねえ?」
…これってナンパ?
どうしよう、断らないと…。
「っ?!」
男があたしの服に手を掛けた。
「や、やめて下さ…」
必死で声を絞り出す。
「一人だろ?遊ぼうぜ」
「ッだ、駄目です!あたしには恋人が…」
そう言いかけて、気づいた。
彼と、別れたんだった。
今更だけど、涙が溢れ出てくる。
「っふ…ぇ…」
「あれ、大丈夫?なんかあったんなら、俺達が忘れさせてあげるよ?」
どく、っと心臓が音を立てて鳴った。
彼との思い出を、忘れる事が出来たら…。
「俺達と沢山遊んで、嫌なこと全部忘れようぜ」
そうだ。
沢山遊んで、彼を忘れてしまえばいい。
彼と結婚できない人生なんて、壊れてしまえばいいんだ。
…気がついたら、頷いていた。
男の人は嬉しそうに、笑った。
「じゃあ行こうか」
男の人の手が、肩にかかる。
その瞬間、あたしはその手を跳ね除けていた。
「…っ?!」
男の人が、声を上げる。
やっぱり、無理だよ。
彼以外の人に、触られたくない。
「や…ッやだ、触んないで…!」
「はぁ?!痛えじゃねえか、ふざけんなよ!」
男の人が拳を振り上げる。
「キャッ…!」
怖い…!助けて…!
「彼女に触んな!」
…この、声は…!!
目の前に、あたしの大好きな人が立っていた。
「なん…で…」
あたしの言葉が終わらないうちに、彼はあたしの手を取った。
「逃げるよ!」
彼に手を引っ張られて、あたしは走り出す。
…なんであたしを、助けてくれたの…?
涙しか出てこなかった。

