少し短めのスカートを揺らし、足早に廊下を歩く紗季を、ラックは一生懸命追いかけていた。


〈ちょっと止まってってばー!!〉


何度呼びかけても、紗季にラックの声が聞こえるはずもなく、その足が止まることはなかった。
時折、風で髪が揺れると、耳元で何かが小さく光る。


ラックはそれを見ながら、ただひたすら追いかけていた。


紗季の向かった先は風の良く吹き抜ける場所、遠くまで見渡せる屋上だった。


〈ねぇ。君は“紗季”って言うんだよね?あいつが言ってた〉


ラックが話しかける。そんなことは知らず、紗季は深いため息をついた。


〈どうしたの?〉


「修平のばーか・・・」


〈しゅうへい・・・って、あいつのことだろ?ね、紗季〉


「少しは気付いてくれてもいいじゃん・・・」


カシャン、と音を立てて、紗季はフェンスに寄りかかった。


ラックはそーっとその隣に寄りかかる。
ラックがそうしてもフェンスは音を立てなかった。


〈ねぇ、紗季。僕はね、君を見たときからずっと訊きたかったんだけど―〉


聞こえるはずなんてないのに。伝わるなんてないはずなのに。


それでもラックは、紗季の心の中に語りかけた。


〈君はさ、本当は―〉