それは一瞬で。
そして、微かな声で。
修平は顔をあげた。
紗季は確かに、自分の名前を呼んだのだ。
〈聞こえた・・・?〉
リーフも驚きの声をあげる。
まさか、そんなことが?
ただ、紗季はそれでも訳のわからないというような表情をしていた。
自分が何故“しゅうへい”という言葉を口にしたのかわかっていなかった。
『紗季・・・。紗季!』
「・・・あたし・・・。どうして・・・」
『俺だよ。修平。わかるか・・・?』
「え・・?」
『紗季・・・』
確かに、紗季には修平の声が聞こえていた。
紗季は雪ウサギをじっと見つめて、頭を抱えていた。
〈修平・・・・。紗季が・・・〉
リーフが声をあげる。
見上げると、修平の顔に滴が滴り落ちた。
紗季の頬を伝う涙の粒が、
ゆっくり、ゆっくりと修平へと落ちる。
ぽたぽたと、それは次第に強く溢れ出した。
「修平・・・?」
紗季は両手で雪ウサギをそっとすくった。
修平は紗季に気付かせるように、ぴょんぴょんと跳ねていた。
手の上で跳ね続ける雪ウサギを見つめて、紗季はもう1度呟いた。
「修平・・なの?」
“この子、修平に似てない?”
“もっと強いやつに似てんの。俺は!”
“似てるよー”
『思い出したんだね。紗季・・・・』


