『紗季・・・』


真っ白な広い屋上。


フェンスの近くに倒れている紗季の姿を、修平は見た。


跳ねるたびに雪に埋もれそうになるのを乗り越え、
紗季の傍まで駆け寄った。



紗季だ・・・。



あの頃と変わらない、紗季がいる。



修平は紗季の顔を覗き込んだ。



泣いてた・・・?



何を想って・・・?




本当に、記憶を失くしてしまったのだろうか。


こうして見ると、紗季の記憶がないなんて信じられなくて、
修平は戸惑った。



紗季。


なんで泣いてる?


いつもみたいに、頭を撫でてやることも、
声をかけることもできない。



やはりラックの言った通りになってしまうのか。



今の自分には何も出来ない。



修平は紗季を見て改めてそう思った。


大体、死んでからこうしてここにいられること自体が不思議だ。


その上紗季に触れたいと思うなんて・・・。


修平は自分の愚かさを感じて地面を見つめた。



〈修平・・・〉


リーフが遠くから心配そうに話しかけた。


修平は振り返ってリーフを見ると、悲しそうな顔をした。


その時だった。




「ん・・・。あれ?寝てたの・・・?」


〈紗季が・・・っ!〉


修平が振り返ると、寝ていた紗季が体を起こして目をこすっていた。





紗季の声だ。



修平は久しぶりに聞いたその声に涙が出そうになるのを必死で堪えた。