「紗季。おはよう」


「修平、10分遅刻!!」


緑が広がる田舎道。風は冷たく、空は青く広大で。


古びたバス停は白くなり、その存在を薄れさせていた。


その場所に、高校生の男女が2人。
少し明るい色が混じった短い髪が良く似合う可愛らしい女の子、山下紗季と、流した茶髪で長身の男、神谷修平がいた。


「悪ぃ。待ったよな?」


「明日からモーニングコールでもする?」


「や。いいです。お前から毎朝怒鳴られたくねぇしな」


2人は付き合っている恋人同士なのだろうか。それとも、仲のいい友人なんだろうか。


「あ。紗季。また手ぇ出してる」


紗季の手は真っ赤に染まり、見るからに冷たそうで・・・。


修平は少し困ったように自身の左手の手袋を外して紗季の左手にはめる。
そして空いた右手を優しく包み込み、ポケットの中に入れた。


「修平・・・」


「紗季はめんどくさいっつっていつもそのままだよな。少しは大事にしろよ。
 女の子は体冷やしちゃだめだろ!?」


「う、うるさい!修平のくせに生意気!!」


「はぁ!?何だよ。素直じゃねぇなぁ」


2人の他に誰もいないバス停は、言い合う声が響くだけで、
バスが来るまでその静けさを保っていた。