「家まで、迎えに行くよ。
 今日、バイトは?」

「バイトは……
 お休み貰ってて……」

「調子悪くて?」



ふいに心配するようなトーンになった
そーすけさんの声が、
胸を締め付けていく。


「今は……
 大分、落ち着きました」

「そう。
 なら……出掛けられる?」



誘われるままに頷く。




怠い体でベッドから這い出して、
そのまま、クローゼットの前で
服を選ぶ。


アジアンテイストの強い、
ワンピースをチョイスして
身に着けると
そのまま顔を洗って、
メイクを済ませて……
ゆっくりと部屋を出て行った。



「何処に行くの?」


心配して声をかけてくれた、
女将さんには……
友達が、病院に
連れていってくれるからと
短く嘘をついて。



チクリと痛みを感じながらも、
今は……私自身の、
乾きすぎた泉を
少しでも満たしたくて
必死だった。




独りは……寂しすぎるから。





すぐに、そーすけさんの車は
居酒屋の前まで辿りついて、
ハザードをつけながら
道路に寄せて止まった。

ガードレールが途切れた隙間から、
車の中に乗り込むと、
硬いシートに包まれる。




「こんばんは」



そーすけさんに、
にっこりと微笑みながら声をかける。


今日も車内には、
ロックが流れ続ける。



エレキギターの泣くようなサウンド。
叫ぶようなサウンド。


そして……哀愁を漂わせる、
アコースティックギターの音色。



そんな音を聞きながら、
車は……また夜の街を、
イルミネーションを眺めながら
走り出す。






会話も続けられない時間だけど……
この瞬間だけは、
そーすけさんは……
私と一緒に居てくれる。



私の寂しさを埋めてくれる。




だから……
この時間が長く続けばいい。



そんな風にすら思ってしまう。





車は……峠を登って、
いつものように、
悠生さんの喫茶店の駐車場へと入っていった。