灯りの消えてない
誰も居ないリビング。



そんな風に感じた部屋をすり抜けるように
ダイニングへと移動していた視界の隅、
ソファーに持たれるように
座ったまま静かに
目を閉じて眠るそーすけさん。


ガラステーブルの上には、
水滴が沢山吹いた、グラスが二つ。

空っぽになったグラスの中の氷は
もう随分、溶けて、

もう一つのグラスは、
随分と薄まっているように見えた。




リビングの部屋の隅々までをゆっくりと見渡すと、
コンパクトに畳まれた、タオルケットを見つけて
ゆっくりとそれを手に取って、
そーすけさんの肩へとかける。



もぞもぞっと動いたそーすけさんは、
その時……小さく呟いた。





……みく……っと。






そーすけさん?


みくさんって、
誰ですか?





今すぐにでも聞きたい気持ちと、
これ以上は、開けることは許されない
パンドラの箱みたいで
ただ……その場で、
立ち尽くすしか出来なかった。




明け方まで眠れないまま過ごして、
始発電車が走りそうな頃、
成実が眠る部屋で、
着替えを済ませると
そーすけさんたちの住む家を
一人後にした。



知らない町。

見慣れない景色。






タクシーすら走っていない
明け方。




携帯電話のナビ機能に助けられながら、
自分のテリトリーへと
ゆっくりと帰っていった。







せっかく好きに慣れたと思ったのに……
失恋、決まっちゃったのかな?


私……。






そーすけさん……。


みくさんって……
誰ですか?










心の中、
問いかけてみるものの
帰ってくる言葉なんて
何もない。






どっとだるく感じる体を引きづるように
家の中に入ると、
音をたてないように出来るだけ
気を付けながら階段をのぼって
そのままベッドの上に倒れ込んだ。