いけない。

涙が滲んでるかも……。

あたしは俯いて目をパチパチさせてなんとか誤魔化した。



「ほんとめずらしいですね。佐伯さんがケーキを注文するなんて」


佐伯さんはいつもコーヒーを頼むだけだったから。


「なぁ、サキ……」


マヒロさんがあたしに背を向けたまま声をかけた。


「……まだ好きなの?」


「わかりません。でも、失恋したからって、はいそうですか……ってすぐに忘れられるほど簡単じゃないんです……」


「ふ――ん」


マヒロさんは相変わらずあたしの方を見ずに、そう呟いていた。