電車に揺られながら考える。


手の中には小さな箱。

いかにも……って感じのハート柄の包装紙でラッピングされたそれは、まさしくバレンタイン用のチョコだった。


だけどこれは単なるチョコじゃない。

あたしが初めて自分で考案したチョコレートなんだ。


あたしはこれをマヒロさんにあげた。


マヒロさんて、いつも飄々としていて、掴みどころがなくて……。

こういっちゃあなんだけど、かなりの女好きに見える。

前なんて店内のトイレの前で、こともあろうにお客さんとキスしているとこを目撃しちゃったし。

とにかくかなり遊んでて軽そうなイメージの人。


そんな彼にあたしはこのチョコをあげた。

でもそれは、普通の女の子が好きな人にあげるそれとは意味が違ってて……。


あたしは、マヒロさんにこう言ったの。


「本気で好きな人ができたらこのチョコをあげてください」って。

外国ではバレンタインに男の子が女の子にプレゼントするのも普通だ……ていうしね。

それはあくまでパティシエとしてのあたしからのプレゼントだった。


だって、マヒロさんは本気の恋をしたことがないなんて寂しいことを言うんだもん。

だからマヒロさんにホントに好きな人ができたらいいな……って、そう思ってあたしはこのチョコをあげたのだ。