肩を震わせて泣きながら言葉を続ける。


「ふぇ……名前覚えてて……呼んでくれた……それだけでもう充分だよ。うれしかっ……」


そんなサキの言葉を聞いて、オレまでもらい泣きしそうになった。

あの日、『名前を呼んでもらいたい』と言ってペロリと舌を出したサキの顔が浮かんだ。


「アホ。まだ仕事中だろっ。泣くなっつの」


オレは自分の感情を誤魔化すために、わざとからかうように言って、サキの頭をポンポンと撫でる。

それから、腰に巻いたエプロンでサキの涙を拭った。


それでもいっこうに泣き止まない。


「もう泣くなって」


そっとサキの体を引き寄せ抱きしめると、彼女の頭を優しく撫でながら囁いた。


「ひーん……。マヒロさんがガラにもなく優しくするからだよー」

「うるせー。『ガラにもなく』は余計だっつの!」


サキの体から甘いチョコレートの香りがして、オレの心にふんわりと沁み込んでいく。