そしてバレンタイン当日。

いつものように、佐伯さんはやってきて、やはりいつものようにブレンドを注文した。



「なぁ。チョコはもう渡さねーの?」


オレはキッチンで作業中のサキに声をかける。


「渡せるわけないですよぉ……」


小さく笑いながら呟いていたが、その声はか細く震えていた。

我ながら無神経な質問をしてしまったと、自己嫌悪に陥いる。


だけど、このまま終わらせるのが、なんとなく嫌だったんだ。


「じゃ。オレが渡してくる」

「え?」


オレはショーケースの方へ向かうと、小さな皿に“flocon de neige(フロコン・ドゥ・ネージュ)”を一粒乗せた。


「ちょ……ちょっと、マヒロさん! そんな勝手なことしたら、店長に怒られちゃうよ?」


サキは心配そうにオレの後ろからついてくる。


「いいって」


そう。

別に怒られるぐらいどうってことないよ。

それよりもオレは今、どうしてもこれを届けたいんだ。


「失礼します」