「仕事に関してはきっちりプロ意識を持ってやってます。
パティシエって結構ハードな仕事で、マシェリでは男でも続かないやつ多いんですよ。
けど、サキは頑張ってます。夢に向かって。
オレ、彼女のそういうとこ、尊敬してます。
それに……。
そういうとこにホレたんだと思います」
うわぁ……マヒロさんてば。
お父さんの前でなんてこと言うんだぁ……。
かああああって、顔が熱くなってしまって、あたしは両頬を手で覆った。
自分で言ってて照れちゃったのか、軽く咳払いをしてから、マヒロさんは言った。
「オレ、ずっと疑問だったんですよね。
サキのあの根性はどこからくるんだろう……って。
あんな細い体でなんであんなに頑張れるんだろう……って。
でも、今日、お父さんと話してみてはっきりとわかりました。
あんなに弱そうに見えて、強いのは、お父さんの教育があったからなんだなぁって」
お父さんは庭の方を見ながら、かみ締めるように言う。
「いや、僕は自分の教育が一番だとは思っていない。
今でも、あれが正しかったかどうかなんてわからないんだ。
一人の人間を育てるのにマニュアルなんかなくて、それこそ全て手探りだった。
でも、それならいい。
ちゃんとやれてるなら……それでいいんだ」
――チリン
また風鈴の音が響く。
かすかに聞こえる虫の声。
しばらく沈黙が続いた後、ふいにマヒロさんの方に体を向けたお父さんは
「マヒロ君……」
初めてマヒロさんをそう呼んで、
それから頭を下げてこう言った。
「サキをお願いします」


