「じゃ。今日の授業はここまでにしよっか。あたし着替えてくるわ。サキちゃん、後片付けお願い」


ポンとサキの肩を叩いてから、ユミコさんはキッチンを出て行った。


「ほんと美味かったよ」


オレが思ったことをそのまま口にすると、サキは嬉しそうに微笑む。

そして「あ、そうだ」と、何かを思いついたような顔をして、またショーケースの方へむかった。

さっき食べた“flocon de neige(フロコン・ドゥ・ネージュ)”を始め、いくつかのチョコを箱につめ出した。


「はい。これどーぞ」


バレンタイン用のラッピングまでしたそれを、彼女は満面の笑みでオレに差し出す。


「へ? オレにくれんの? バレンタインにはちょっと早いんじゃないの?」


わざとからかうように言うと、サキの頬は真っ赤に染まった。

この反応は、何度見ても面白い。


「ちっ……違いますってば! そんな意味じゃないです! おいしいって言ってくれたからお礼です」


「そか。サンキュ」


オレはサキの手からチョコレートを受け取った。


「そだ! マヒロさん! これ好きな人にあげてくださいよ!」


そんな唐突な提案にオレは驚く。


「は? 男がチョコあげんの?」


「そうですよ。外国じゃ、男の子が女の子にチョコレートを送るのも普通なんです。 マヒロさん、本気で好きな人ができたら、これをプレゼントしてあげてくださいね」


「本気で好きな人ねぇ……できるかな」


「できますよ!」


どこからそんな自信が湧いてくるんだか。

サキは白い歯を見せてにっこり微笑んだ。