「はああ? はぁああああ?」


「え……違うんですか?」


オレは、はぁ……とためいきついてうなだれる。


「あのさ……どんなボケかましてんの。オレ工学部だっつの! んな、論文書くわけねぇだろぉ……」


そして、さっきからソロリソロリと公園から逃げようとしているヤツをキッと睨み付けた。


「望月ぃいいいいい!」


とっ捕まえて、後ろから羽交い絞めにすると、耳元でわざと優しく囁いた。


「お前、何考えてんの?」


「えっ……いや……その……」


望月はなんとか言い逃れしようとあたふたしている。

だけど、ついに観念したようだ。

正直に全てを告白した。


「ごめんて。いやぁ……いっぺんニューハーフのオネエ様方と遊んでみたかったっつうか……」


「だったら、お前だけ行けばいいだろっ。なんでオレまで巻き込まれなきゃならなかったんだよ」


「だって、マヒロ君からかうの、めっちゃおもろいねんもん。ニューハーフって知らずに合コンしてどんな反応するんかなぁ……みたいな。あはは。まさかお泊りするとは思わんかったけど……」


「へぇ……なるほど」


オレは小首を傾げて、これ以上ないぐらいの極上の笑みを浮かべた。


「お前……明日覚えとけよ? 命ないからね」


「ひっ……」


望月が小さく悲鳴をあげたところで、背後から声がかかった。



「ま、せっかくみんな揃ったんだし、これから飲み行かない?」


人差し指に引っ掛けたキーホルダーをクルクル回しながらアイちゃんが微笑んでいた。


その背後には月がぽっかりと浮かんでいて、まぬけなオレ達を見下ろしていた。